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私たちの患者さんとの関わり方

 訪問診療を続けていても、その人のことを理解しきれているとは思わないことにしています。私たちが見ているのは、その人の生活の中のほんの一部分にすぎないからです。

 

 例えば、「子どもには迷惑をかけられない」と話していた方が、別の場面では「もっと世話をしてほしい」と家族に求めていることもあります。一見すると矛盾しているように見えますが、どちらもその人の本当の気持ちなのだと思います。人は、ひとつの筋の通った考えだけで生きているわけではありません。その時々の状況や感情の中で、異なる思いを抱えながら過ごしています。だからこそ、限られた時間の中で交わした言葉だけで、その人を理解したつもりになることには無理があると感じています。

 

 日々の診療では、深い話を無理に引き出そうとすることはありません。世間話の延長のような会話が中心です。好きなテレビの話や、昔の思い出、食事のことなど、ささやかなやり取りです。

 

 高齢の方の中には、過去を振り返って自分の人生を語ること自体が難しい方もいます。また、そうしたことをあえて話そうとしない方もいます。楽しい会話ができれば、それで十分なことも少なくありません。

 一方で、これまで表面的なやり取りしかしていなかった方が、ある時ふと、自分の過去や今の思いを語り出すことがあります。

 こちらが何か特別な質問をしたわけではありません。ただ、その人の中で、「この人なら話してもいいかもしれない」と思える瞬間が訪れたのだと思います。かざらずに自分のことを語るには、その人自身が落ち着いていて、安心していられる状態が必要です。対話は、こちらが深めようとして深まるものではなく、そのような条件が整ったときに、自然に起きるものなのかもしれません。

 

 診察時間は限られていますが、相手に関心を持ち、関わり続けることを大切にしています。人と人が会話して少しずつ時間が積み重なっていく。それがやがて、お互いの人生の一部として価値を持つようになるのではないかと考えています。

 

 今はそんな風に考えながら、日々の訪問診療を続けています。